吉田寮問題にかかわる教員有志緊急アピール

京都大学の教員有志が主体となって「吉田寮問題にかかわる教員有志緊急アピール」を発表しました。 呼びかけの主な対象として想定しているのは京都大学の教授会構成員ですが、一般の方にもご賛同いただけます。賛同の受付は終了しましたが、今後も関連情報などをアップしていく予定です。

賛同者からのメッセージ集(2月25日12時現在まで)

◯水野広祐(呼びかけ人)さんのメッセージ

長い歴史をもつ吉田寮とその寮を支えてきた自治会の存在を尊重し、また大学と吉田寮との交渉の積み重ねの経緯を踏まえ、一刻も早く大学執行部が吉田寮自治会との交渉の場にもどることを願います

◯松本卓也(呼びかけ人)さんのメッセージ

「京大は、おもろい」――京都大学の2019年度の公式パンフレットの表紙にでかでかと踊るキャッチコピーである。

ここ数年で、これまでの京大がもっていた、どこか危うげであり、それゆえにときとして強みにも転化しうる隠れた持ち味であったはずの「おもろい」「変人」といった言葉が、「上から」「堂々と」「公式に」使われるものへと急激に変質してしまったように感じる。

吉田寮を始めとする自治寮、そして京都大学にギリギリ残っている学生自治の文化が、かつての「おもろい」「変人」文化の一翼を担うものであったとすれば、現在起こっていることはそれに対する「文化盗用」であるとみなすことが許されよう。

かつての「おもろい」「変人」といった言葉がもっていた境界的な性質――それは、さまざまな雑多なもの、怪しげなもの、狂いに満ちたものとのあいだに生まれ、ときにはさざまな格闘の末に得られた文化である――は、この文化盗用によって見るも無残に脱色されてしまい、「ソフィスティケート」された商品になりはててしまった。

もちろん、それは時代の流れなのかもしれない。現代とは、「カフェイン抜きのコーヒー」が流行するように、本質を失った形骸が本物のふりをして大手をふって流通する時代であるのだから。

こういう時代なのだから、大学は思い切って、「京大は、おもろい」などと言わずに、「真面目」かつ「本格派」な路線を突き進むこともできたであろう(現に、他の大学はほとんどがそうしているではないか)。そうすることもできずに、いまだに「おもろい」「変人」というコンセプトに未練タラタラであるばかりか、それを「客寄せパンダ」として掲げようというのだから、滑稽であるとみなされても仕方あるまい。

時代の流れに対して無批判に追従するのか? それとも、今も残る「おもろい」「変人」の伝統の燃えカスを生かして、その流れに可能な「捻り」を加えていく余地を確保していくのか? その選択は京都大学の全構成員によって決定されるべきであろう。

◯石井美保さん(呼びかけ人)のメッセージ

「あらゆるものの中心が、キッチンと図書館というふたつの施設からなる傾向にあったことは重要だ。」
 2011年にニューヨークで起きたオキュパイ運動についての著作の中で、デイヴィッド・グレイバーはこう書いている。台所と図書館。それは自発的なコミュニティの形成と持続にとって必要欠くべからざるものだ。本とキッチンを中心に、生活の場であり議論の場でもある空間が創りだされ、人びとが自然と集まり、有機的なネットワークがじわじわと広がっていく。それは並木道に置かれたベンチのように見栄えのいいものじゃなく、むしろむさ苦しくて薄暗い居場所かもしれない。でも、野生の勘をもった人たちや猫たちが集まってくるのは、いつもそうした路地的で裏道的な空間だ。
 そうした空間は、一朝一夕に作りだされるものではない。熱帯雨林のように微妙な均衡を保って維持されてきた有機的な関係性の網目は、一度破壊されてしまえば簡単には元に戻らない。いくら外から再生のお膳立てをしたとしても。
 学生食堂のテーブルにパーティションを作ること。
 無線を持った警備員を正門に常駐させること。
 立て看を撤去し、設置できる場所や期間や団体を管理すること。
 吉田寮から学生を退去させ、コミュニティを解体すること。
 これらはみんな、連動して起きている出来事だ。そうやって路地的なるものの排除を進めながら、他方では多額の宣伝費を使って「おもろい京大」のイメージが喧伝されている。おそらくは、お客様としての未来の学生たちに対して。管理する側にとってややこしい、薄暗い、危なっかしい要素を排除して、どこまでもクリーンで合理的でコスト・ベネフィットの帳尻が合うような、そんな大学と学生像が目指されているのだろうか。
 スターバックスがいくら宣伝しても真のサードプレイスにはなれないように、外注して作りだされた「おもろい京大」がアピールされても、虚しく歯がゆい。胃袋と知識を真ん中にして、人びとが根っこのところでつながりあい、大学からはみだしていくようなコミュニティを抱えもっていたほうが、大学としての底力は増すに違いない。路地的野生を手放してはならない。

◯安部浩さんのメッセージ

「吉田寮問題にかかわる教員有志緊急アピール」に賛同申し上げます。本学の基本理念(平成13年12月4日制定)の第三条は次の通りです。「京都大学は、多様かつ調和のとれた教育体系のもと、対話を根幹として自学自習を促し、卓越した知の継承と創造的精神の涵養につとめる」。また第八条ではこう定められています。「京都大学は、環境に配慮し、人権を尊重した運営を行うとともに、社会的な説明責任に応える」。学生諸氏に対する際には対話を以てし、人権尊重を宗とする本学の理念は当然、この吉田寮問題に対しても適用されねばならぬと考えます。

◯中原耕さんのメッセージ

吉田寮に対して全寮生の退去を命じるなど、この間の大学側の強権的なやり方には到底納得することができません。
緊急アピールに賛同するとともに、京都大学における寮自治の存続を切に願います。

◯[匿名希望」さんのメッセージ

匿名希望です。京大執行部の体制には失望しています。吉田寮にかかわる不当な権力行使には反対です。吉田寮の存続を願っています。